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2021.11.29
ワーケーション環境を整備する自治体が得られる4つのメリットと課題を紹介
”働きながらも同時に休暇を満喫する”ということをテーマにした新たな働き方が、近年、日本中で急速に普及しつつあります。
これを後押しした背景には2020年から猛威を振るったコロナウイルスの爆発的な感染を防止することを目的として、在宅勤務やテレワークを日本政府が推奨したことにあります。このような理由から普及が始まったワーケーションですが、このワーケーション、ワーケーション制度を導入しようとしている企業、そこで仕事を行う社員、ワーケーションの環境を提供する自治体のそれぞれにとって大きな利点が存在します。
今回の記事では、その中でも特に自治体に焦点を当ててワーケーションの魅力を解説していければと考えております。加えて、魅力の多いワーケーションであっても、この環境を提供しようとする自治体は適切なワーケーション環境を築いていかなければ、企業や社員さんを地元へと誘致できずに徒労に帰すことにもなりかねません。
この記事を通じて、戦略的に地元地域を魅力ある場所へと変えていけれるようになってもらえますと幸いです。ぜひ最後までご覧ください。
ワーケーションの基本
まずはじめに、ワーケーションの基本を抑えていきましょう。冒頭でも触れたように、ワーケーションとは”働きながらも同時に休暇を満喫する”ことをテーマとした、新たなワークスタイルのひとつです。ワーケーションの語源も、このテーマに基づいた造語であり、働くことを意味する「Work(ワーク)」と休暇を意味する「Vacation(バケーション)」が組み合わされています。
今回の記事では、このワーケーションが自治体にとってどのような魅力があるのかを伝えていきますが、ワーケーション制度を敷こうとしている企業やそこに勤める従業員にとっても魅力あるものとなっています。この2者にとってのワーケーションのメリットは以下の通りに挙げられます。
◆企業にとってのメリット
- 社員の有休休暇取得が休暇シーズンに集中してしまう偏りが是正され、企業経営が通年コンスタントな状態を築きやすくなる
- 新たな働き方に対する理解を持っていることを外部にアピールすることができ、新たな人材獲得や社員の就業年数の拡大につながる
- ワーケーションという新たな働き方改革を進めるための経験を得ることで、今後更に新たな働き方の改革が迫られる事態になった際に、迅速かつ円滑な対応を行えるようになる
◆従業員にとってのメリット
- 仕事と休暇を両立しているため、有休休暇の取得における精神的な負担を軽減することができる
- 従来の働き方から解放され”職場に縛られる”ことがなくなるため、時間の使い方の自由度が上がる
- 日常とは異なる環境で仕事を行うことができ、業務の合間などにも気軽に気分転換が図れる
自治体にとってのワーケーションのメリット
ワーケーションの基本的な内容をご理解いただいたところで、自治体にとってのワーケーションの魅力がどこにあるのかを見ていきたいと思います。
主な自治体にとってのワーケーションのメリットは以下のように説明されます。
- ワーケーション利用者がワーケーション期間中に訪ねた地域で消費活動を行うため、地域の観光業や商業を中心に経済が活性化しやすい
- 地域とさまざまな関わりをもつ人々、”関係人口”の増加につながる
- 地域との関わりが更に深くなることで、関係人口である人々の中から、地域へと移住・定住しようとする人々が現れるようになる可能性がある
- 関係人口、移住・定住者が増加することによって地域の経済や自治などの自律(自立)性、持続性が維持されるようになる
それぞれに関して詳しく見ていきましょう。
地域の観光業や商業を中心に経済が活性化しやすい
ワーケーションという働き方は、これまでに何度も説明したように”働きながら休暇を満喫すること”が主目的となっているため、ワーケーションを利用している方々は仕事の合間に地域の観光スポットや観光施設、各種の商店を訪れることとなります。
コロナウイルスの流行によって、経営状況が悪化してしまった観光施設や宿泊施設は数え切れず、中には閉店・廃業等に追い込まれてしまった事業者さんも数多くいらっしゃったかと思います。
一方で、そんな社会情勢の中でも事業を続けてこられた観光業・宿泊業・商業関係者がいるのも事実であり、ワーケーションを通じて、もう一度企業経営を立て直す可能性があるとして、ワーケーション環境の整備にあたって地元企業を支援する自治体も多いです。
そして、特定の産業の経済が活性化することで、その波及効果として地域の経済にも潤いが戻ってくる可能性も十分に秘めており、地域経済の活性化における解決の糸口になるのではと期待されています。
”関係人口”の増加につながる
関係人口とは、ある地域や地域の人々との関わりに基づいてカテゴリー化されたワードのひとつであり、特定の地域に生活基盤を築き、その地域と綿密に関わりを持っている”定住人口”と、観光などを目的に地域を訪れるものの一時的な関わりに留まっている”交流人口”の間にカテゴライズされています。
定住人口・交流人口と比較して、関係人口に該当する、地域や地域との関わり方は非常に多岐に亘っており、日本各地の地域における関係人口を増加させることを目的に、関係人口に関する情報提供を行っている『関係人口ポータルサイト』では、関係人口に属する人々として、その地域の中に親族等がいて地域内にルーツを持つ人や、これまでに勤務や居住、滞在等を通じて何らかの関わりをもった人、純粋に地域に何度も訪ねてくる人などが説明されています。
ワーケーションは職場を離れて、観光地等で勤務する働き方であるため、ワーケーションをひとつのきっかけにして、地域や地域の人々に関わりを持てるようになり、これが地域にとっては関係人口の増加につながっていくのです。
(出典:地域への新しい入り口-関係人口ポータルサイト_「関係人口とは?」)
地域へと移住・定住しようとする人々が現れるようになる
関係人口ポータルサイトでも説明されているように、地域への関わり方としての多様性・深さと、それを通じた地域に対する関わりの想いが高まることで、関係人口の枠組みを抜けて、地域に定住する”定住人口”になろうとする人が現れるようにもなります。
関係人口・定住人口にはこのような関係性があるため、地域の自治体はこれに合わせて、ワーケーションやテレワークのための環境整備を進めるだけでなく、この先を見据えた移住・定住のための支援も積極的に行っています。
地域の経済や自治などの自律(自立)性、持続性が維持されるようになる
現在、経済を支える若年層や生産年齢人口の都心部への流出によって、日本の多くの地方地域が、地方自治や地方経済を維持することが困難な(困難な局面へと進みつつある)状態にいます。
ワーケーションを通じて、地域の観光業や商業が盛り上がり、これを起点にして地域の経済が活性化すると先に説明しましたが、これだけでなく、関係人口・定住人口が増加することでも同じように地域経済を盛り上げられるようになります。
また、関係人口が定義する地域との関わり方が多岐に亘ると説明したように、地域の政策などに外部者として関わりを持っている方もいらっしゃいます(関係人口から定住人口へとなった人も同じくです)。
このような人々は、地域外での生活を経験しているため、地域の実情を客観視できる目を持っているとともに、地域の人々では気付くことのできなかった地域の魅力やアイデアを創出する可能性も秘めています。このような、従来では起こり得なかった取り組みが地域から生まれるようになることで地域の自律(自立)性や持続性にもつながっていくようになります。
ワーケーション環境を提供する際の課題と戦略
ワーケーションに関する大きな潮流が、日本企業だけでなく日本の地域自治体にも広がってきており、これによってワーケーションの成功事例として取り上げられる地域自治体も増えてきました。しかし一方で、ワーケーション環境を提供するための課題に直面し、想定したよりも企業や従業員を誘致することができずにいる自治体があるのも事実です。
このような課題の根本となっているものには”戦略性”が挙げられます。地域の自治体は公平に、公正に、行政サービスを地域住民へと提供することが必要な立場にあり、企業が売上を挙げるための戦略(事業テーマ、事業目的、事業ターゲット、収支プランなど)を練ることに対する土台が十分には築かれていません。
この傾向は特に地方の自治体においては顕著に見られていることであり、これを補完することを目的に、これまで地域外での経験を積んでこられた地域内事業者の方などを策定委員会に加えるなどの工夫を行っている自治体もあります。
このような対応が悪いということは何一つありませんが、地域の自治体にこのような土壌が育まれることで、更なる改革が迫られた際に、地域に関わりのあるアクター全てで改革を進めていけるようにもなります。
これを実現するためにもワーケーションにおける”戦略”を練ることは非常に大切なことであり、地域の自治体の方にはぜひとも以下のことを意識して頂きたく思います。
ワーケーションの目的を明確に定める
ワーケーションの潮流が大きくなっている現在であり、ワーケーションにおける成功事例として取り上げられるようになっている自治体も現れるようになると、いざ自分たちの地域でもワーケーションを始めようとなると、あれもこれもと考えてしまい、結果的に当初の目的が何であったのか見失ってしまいがちです。
このような状態に陥ってしまわないためにも、”ワーケーションの企画を立てる段階”からワーケーション誘致を行う目的を定めることが重要となります。
目的を定めるにあたっての検討材料は多様にありますが、自分たちの地域がどこかの都市に近い立地であるのかや、観光資源となるものがあるのか、それとも自然の豊かさとしての強みがあるのか、地域の人々の地域外部者との関わり方はどのような形でありたいのか、などワーケーションを通じて自治体や地域が何を得たいのか、地域の何を伝えたいのかを明確にすることが非常に重要です。
ターゲットの焦点を絞りターゲットにとって価値あるプランを練る
ワーケーションの目的がきちんと明確化されると、それに応じてどのような方をターゲットにしたいのかも見えやすくなります。
例えば、都心に近い立地にある自治体であれば、「金曜と月曜をワーケーションとして働きつつも、土日を挟むことでプチ休暇を定期的に味わいたいと考えている都心の企業に働く従業員」などが想定されます。
これだけでなく、観光資源が豊富にある自治体であれば、「有休休暇を取得して観光旅行やアクティビティを味わえる本格的なワーケーションを経験してみたいと考えている人」などが想定されます。
ターゲットのイメージが固まってきたら、上記に紹介したターゲットが「どのような働き方をするのか」、「性別は」、「年齢は」など、より具体的にイメージすることで、ワーケーション利用期間において、そのペルソナ像にあてはまる人がどのようなワーケーションを行いたいかを想像しやすくなります。
ターゲットの具体化が進むと、ターゲットをピンポイントに構えたプランを練りやすくなり、これが結果的にワーケーション誘致が促進しやすくなるといえます。
まとめ
ここまで、ワーケーションの基本的な概要と、ワーケーション誘致を図ろうとしている自治体にとってのメリット、ワーケーション環境を整えるにあたっての課題と戦略に関してご説明してきましたが、いかがだったでしょうか?
自治体にとっての魅力も大きいワーケーションですが、適切なアプローチを行わなければ、地域の魅力が外部に十分に伝わらず、ワーケーションによる波及効果が地域に還らずに終わる結果ともなってしまいます。
後半にて触れましたが、地域の自治体(特に地方部の地域自治体)は企業が実施する戦略的アプローチを踏むことに対する理解が十分に行き届いていない傾向にあるため、ワーケーション誘致を行おうと考える際には、このことを念頭において今回ご紹介した戦略方法を意識的に行っていただければと思います。
この方法は何もワーケーションに限った話ではなく、地域の自治に関するあらゆる課題に対して有効な手法になっていきますので、ぜひ積極的に実践して頂ければ嬉しい限りです。